「中所得国の罠」という言葉を知っていますか?現在の東南アジア諸国は、まさにこの罠にかかってしまっているといわれています。
現代国際社会を見通すうえで、非常に重要な概念となりますので、今回は「中所得国の罠」についてわかりやすく解説します!
〇中所得国の罠とは?
中所得国の罠(Middle Income Trap)とは、国が低所得国から順調に成長して中所得国になるものの、その後、経済成長が停滞して高所得国に進むことができなくなる状況を指します。
。2007年に世界銀行が『東アジアのルネッサンス』にて、同現象を形容する言葉として用いたのが初出です。
これがなぜ「罠」と呼ばれるかというと、中所得に達した国がさらなる成長を目指す際に、いくつかの障害に直面し、成長が止まってしまうからです。
〇中所得国の罠の基本的な説明
初めは成長する
低所得国では、賃金が安いことを武器にして、工場を誘致したり、労働力を活かした製造業で成長できます。この段階では、経済が順調に伸びます。
賃金が上がると問題が発生する
しかし、中所得国になると、労働者の賃金が上がります。これは生活の向上を意味しますが、同時に安価な労働力を武器にした成長が難しくなるという問題も引き起こします。これまでと同じ方法では、他の低賃金国との競争に勝てなくなるのです。
次のステップに進むのが難しい
中所得国が高所得国になるためには、労働力に頼るだけでなく、技術革新や高度な産業が必要です。しかし、多くの中所得国は技術革新や研究開発に十分に投資できず、経済の成長が止まってしまいます。これが「中所得国の罠」です。
〇例を使った簡単な説明
例えば、ある国が最初は安い労働力を武器に、たくさんのTシャツを作って輸出し、国全体が豊かになっていったとしましょう。国民の生活も向上し、賃金も上がりました。しかし、賃金が上がると、他のもっと賃金の安い国(例えばベトナムやバングラデシュ)でTシャツを作った方が安くなるため、その国の製造業は競争力を失います。
その国がさらに成長していくためには、Tシャツの生産を超えて、自動車や電子機器、IT産業など、付加価値の高い産業にシフトしなければなりません。ですが、それには技術力や教育、インフラが必要で、それが不十分な場合、国の経済は停滞し、「中所得国の罠」に陥ってしまうのです。
〇なぜこの罠が起こるのか?
競争力の失速
低所得国では、労働力が安価であるため、製造業などの労働集約型産業を中心に成長を遂げやすいです。しかし、賃金が上昇し中所得国になると、安価な労働力が競争力の源泉ではなくなります。その結果、低コストの労働に依存した成長モデルが限界に達し、経済の競争力が失われます。
イノベーション不足
高所得国に成長するためには、技術革新やイノベーションを通じて、付加価値の高い産業や新しいビジネスを生み出す必要があります。しかし、中所得国は技術開発や研究開発への投資が不十分であり、これが成長の停滞を引き起こします。特に、教育水準やインフラ整備が不十分な場合、技術革新の力が弱くなります。
生産性の向上が停滞
中所得国では、賃金が上昇する一方で生産性の向上が追いつかないことがよくあります。これは、企業が効率を高めたり新技術を導入したりするための投資を怠ることに起因します。結果として、コストが増大するが、生産の効率や質が改善されないというジレンマに陥ります。
不十分な制度改革
中所得国が成長を続けるためには、ガバナンスや経済制度の改革が必要です。例えば、法整備や腐敗防止、労働市場の柔軟化などが求められます。しかし、多くの中所得国はこの段階で改革が進まず、ビジネス環境が改善されないまま停滞してしまいます。これにより、投資が減少し、成長が鈍化します。
輸出依存の限界
多くの中所得国は、輸出に依存して成長してきました。しかし、賃金上昇に伴い、輸出市場での競争力が低下するため、国内消費や内需拡大を進める必要があります。内需が十分に育たなければ、外的な需要の変動に弱い経済構造のままで成長が止まってしまいます。
〇どうすれば罠を抜け出せるのか?
中所得国の罠を乗り越えるためには、いくつかの対策があります。
技術革新と教育投資
より高度な産業にシフトするためには、研究開発や教育に投資し、技術革新を進めることが必要です。優れた技術や高度な専門知識を持つ人材を育て、国全体の競争力を高めることがカギです。
生産性向上
単純な労働から高度な生産へ移行し、生産性を向上させる必要があります。企業が新しい技術を導入し、より効率的な働き方を実現することが求められます。
ガバナンスとインフラの改善
透明で効率的な政府の運営や、安定した法整備、適切なインフラが整備されていれば、企業活動が活発化し、経済成長が加速します。
結論
中所得国の罠とは、国が低所得から中所得に成長した後、さらなる技術革新や産業の高度化が進まず、経済成長が停滞してしまう現象です。
この罠を乗り越えるためには、単に安い労働力に依存するのではなく、技術や教育、生産性の向上に注力する必要があります。そうすることで、高所得国への道が開かれ、持続的な成長が可能になります。