STP分析は、マーケティング戦略を考える際に非常に有効なフレームワークの一つで、企業が自社の製品やサービスを適切な市場に届けるための手順を示しています。
STPとは、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取ったものです。このプロセスを通じて、企業は市場を細分化し、最も効果的なターゲットに焦点を当て、そのターゲットに対してどのように自社製品を位置づけるかを決定します。
この記事では、STP分析の各ステップをわかりやすく解説し、マーケティング戦略を立てる際にどのように役立つかを見ていきます。
① セグメンテーション(Segmentation): 市場の細分化
まず最初に行うのが市場のセグメンテーションです。
これは、市場全体をひとつのグループとして捉えるのではなく、消費者の異なる特性やニーズに基づいていくつかのグループ(セグメント)に分ける作業です。
セグメンテーションのは下記の変数に沿ってグループ分けしていきます!
1. 地理的変数 (Geographic Variables)
顧客を居住地域に基づいてセグメント化します。地理的条件は、消費者の購買行動やニーズに大きな影響を与えるため、重要な要素です。
地域: 国、州、都市、地域、都市部や農村部など
気候: 暑い地域、寒い地域、四季がある地域
人口密度: 都市部、郊外、田舎
国の文化的特徴: アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、国や地域ごとの文化や消費傾向の違い
例えば、寒冷地向けの冬用衣料品は、寒い地域の消費者に向けたセグメント化が有効です。
2. 人口統計的変数 (Demographic Variables)
人口統計データをもとに、顧客を年齢、性別、所得、職業などの特性で分類します。最も基本的で広く使われる変数です。
年齢: 子供、ティーンエイジャー、若年層、中年層、高齢者など
性別: 男性、女性
所得: 低所得、中所得、高所得
職業: 学生、サラリーマン、自営業、経営者など
家族構成: 独身、カップル、ファミリー、シニア世代
教育レベル: 高卒、大学卒、大学院卒など
例えば、高齢者向けの保険商品は、年齢や所得を基にしたセグメンテーションが適しています。
3. 心理的変数 (Psychographic Variables)
顧客のライフスタイル、価値観、興味、パーソナリティなどの心理的な側面でセグメント化します。消費者の行動や購買決定に影響を与える深い要素を探るために使用されます。
ライフスタイル: 旅行好き、健康志向、アウトドア派、家庭志向など
価値観: 環境保護主義、経済的合理主義、自己表現主義など
パーソナリティ: 外向的、内向的、冒険心がある、安定を好むなど
社会階層: 中流階級、上流階級など
例えば、環境意識の高い消費者向けにエコフレンドリーな商品を提供する場合、価値観に基づいたセグメンテーションが役立ちます。
4. 行動変数 (Behavioral Variables)
顧客が製品やサービスをどのように利用するか、購買行動や製品に対する態度をもとにセグメント化します。実際の行動に基づくため、ターゲットを明確に絞りやすいです。
購買頻度: 頻繁に購入する人、時折購入する人、初回購入者
ブランドロイヤルティ: 高いロイヤルティ、低いロイヤルティ、ブランドスイッチャー
使用状況: ヘビーユーザー、ミディアムユーザー、ライトユーザー
購買タイミング: セール時のみ購入、特定の季節に購入、定期的に購入
購買動機: 価格志向、品質志向、利便性志向
例えば、あるスポーツ用品メーカーがランニングシューズを販売する場合、若いアスリート、フィットネスを楽しむ人々、シニア層といった消費者グループに分けることが考えられます。それぞれのグループが求める機能やデザインは異なるため、それに応じたマーケティング戦略を練ることが可能になります。
②ターゲティング(Targeting): ターゲット市場の選定
次に、セグメンテーションで分けた消費者グループの中から、どのグループに焦点を当てるか(ターゲットを絞る)を決定します。
これがターゲティングです。ターゲット市場を選ぶ際には、各セグメントが自社の製品やサービスに対してどれだけ利益をもたらすか、また競争優位を発揮できるかを検討します。
〇ターゲティングの種類
ターゲティングにはいくつかの方法があります。企業は自社の目標や市場の状況に応じて、適切なターゲティング戦略を選択します。
1. 無差別型マーケティング(Mass Marketing)
無差別型マーケティングでは、すべての消費者を1つの大きなセグメントとみなし、全体に対して同じ製品やマーケティング戦略を展開します。この方法では、個々のニーズに応じた対応はせず、製品の普遍的な価値を強調します。
例: 塩や砂糖のような日用品は、無差別型マーケティングがよく使われます。すべての消費者が同じ商品を使用するため、特別なセグメント分けを行わずにマーケティングを展開します。
2. 差別型マーケティング(Segmented Marketing)
差別型マーケティングでは、複数のセグメントを選び、それぞれに異なる製品やマーケティング戦略を展開します。このアプローチでは、各セグメントのニーズに応じた製品を提供するため、ターゲットごとに適切なメッセージやプロモーションが行われます。
例: 自動車メーカーが異なる顧客層に対して、SUV、コンパクトカー、高級車など異なる車種を展開し、各セグメントに合ったマーケティングメッセージを送る。
3. 集中型マーケティング(Niche Marketing)
集中型マーケティングでは、1つの特定のセグメントに焦点を当て、その市場に特化した製品やサービスを提供します。この方法では、特定の顧客層に対して強い価値提案を行い、競争優位性を確立します。
例: 高級時計ブランドが、富裕層や高所得者層をターゲットにし、限定モデルや特別仕様の商品を提供する場合などが挙げられます。
4. マイクロマーケティング(Micromarketing)
マイクロマーケティングは、個別の消費者や小さなグループに向けて、非常に細かくカスタマイズされたマーケティング戦略を展開する方法です。地域や個人単位での対応が必要な場合に適しています。
例: 地域密着型のビジネスで、特定の地域の消費者に向けてオーダーメイドの製品やサービスを提供する場合。また、オンラインショッピングで個別にパーソナライズされた商品推薦を行う場合も含まれます。
例えば、スポーツ用品メーカーが「20〜30代のフィットネス愛好家」をターゲットとする場合、その層に対してフィット感がよく、軽量でデザイン性に優れたランニングシューズを提案することが効果的かもしれません。
③ ポジショニング(Positioning): 市場での位置づけ
ターゲット市場が決まったら、そのターゲットに対して自社の製品やサービスをどのように位置づけるかを決定する必要があります。これをポジショニングと呼びます。ポジショニングでは、消費者に自社の製品を他社製品よりも魅力的だと感じてもらうために、差別化された価値を提供することが重要です。
〇ポジショニングを決めるためのポイント
ポジショニングとは、ターゲット市場において自社の製品やサービスをどのように位置づけ、競合他社と差別化するかを決めるマーケティング戦略の重要な要素です。適切なポジショニングを確立するためには、いくつかのポイントが重要です。以下は、その主なポイントです。
1. ターゲット市場の理解
ポジショニングを決める際、まずは自社のターゲット市場を明確に理解することが必要です。ターゲットとなる顧客のニーズ、嗜好、購買行動、価値観を分析し、その市場でどのような価値を提供できるかを把握します。
ポイント: ターゲット顧客が何を求めているのか、何に価値を感じているのかを明確にする。
2. 競合分析
自社が市場においてどのように差別化できるかを知るためには、競合他社の強みと弱みを分析することが重要です。競合が提供している価値や強調しているメッセージを理解し、それに対して自社の製品・サービスがどのように異なるのかを見極めます。
ポイント: 競合のポジショニングを把握し、その隙間(ギャップ)を見つけて、そこに自社を位置づける。
3. 独自の価値提案(USP: Unique Selling Proposition)の明確化
自社が他社と異なる「独自の価値」を明確に定義することが、成功するポジショニングの鍵です。このUSP(Unique Selling Proposition)は、顧客にとっての自社の優位性を強調し、購入の動機付けとなる要素です。
ポイント: 製品の特性やサービス内容を通じて、「自社ならでは」の価値を明確にする。
4. 顧客に対する明確でシンプルなメッセージ
ポジショニングは、顧客にとってシンプルでわかりやすいものでなければなりません。複雑すぎるメッセージは顧客に混乱を与え、ブランドの認識を曖昧にしてしまいます。強調する価値や特徴は少数に絞り、それを明確に伝えることが重要です。
ポイント: 短くわかりやすいメッセージを通じて、自社の強みを訴求する。
5. 顧客のニーズと企業の強みの一致
顧客が求めるニーズと、自社が提供できる強みが一致していることが理想的です。自社の製品やサービスの強みを、顧客が価値を感じる要素に基づいて打ち出すことで、ポジショニングが効果を発揮します。
ポイント: 顧客ニーズに合致した強みを基にポジショニングを決める。
6. 市場における「差別化」の明確化
ポジショニングの成功には、他社と明確に異なる点、すなわち「差別化」が重要です。これにより、顧客は自社の商品やサービスを他と区別し、選択する理由を見つけます。価格、品質、サービス、デザイン、技術など、どこで差別化するのかを決め、それを中心にポジショニングを形成します。
ポイント: 差別化ポイント(低価格、最高品質、利便性など)を明確にする。
7. 長期的な視点での一貫性
ポジショニングは、一貫して維持されるべきものです。短期間で頻繁に変更すると、顧客に混乱を与え、ブランドの信頼性が低下します。市場環境や顧客ニーズに合わせて調整することは必要ですが、基本的なポジショニングは継続して保持することが重要です。
ポイント: 長期的に一貫したメッセージや価値を提供し続ける。
8. 顧客体験の整合性
ポジショニングは、広告やメッセージだけでなく、顧客が実際に体験するプロダクトやサービスにも反映されるべきです。顧客が感じるブランドのイメージと、実際に提供される価値が一致していなければ、ポジショニングは失敗に終わります。
ポイント: 製品やサービスの質が、ポジショニングで伝えたメッセージと一致しているか確認する。
9. 感情的価値の考慮
消費者の選択は、機能的な価値だけでなく、感情的な価値にも大きく左右されます。顧客が自社製品やブランドに対して感じる「感情的なつながり」を考慮したポジショニングを行うことで、より強力なブランドロイヤルティを築くことが可能です。
ポイント: 感情的な要素(安心感、満足感、楽しさなど)をポジショニングに組み込む。
まとめ
ターゲット市場の理解: 顧客のニーズを把握し、それに応じた価値を提供する。
競合分析: 競合他社のポジショニングを把握し、差別化を図る。
独自の価値提案(USP): 自社ならではの強みを明確にする。
明確でシンプルなメッセージ: 顧客にわかりやすく伝える。
顧客のニーズと企業の強みの一致: 自社の強みを顧客ニーズに応じて強調する。
市場における差別化: 他社と異なるポイントを明確にする。
長期的な一貫性: ポジショニングは一貫して維持する。
顧客体験の整合性: 実際の製品やサービスがメッセージと一致する。
感情的価値の考慮: 顧客との感情的なつながりを考慮する。
④まとめ
ここまでS(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)を分けて紹介しました。
企業が自社サービスを売っていくうえでは、ここまでで紹介したSTPをしっかりと抑え、自社サービスと市場のニーズとをマッチさせることが肝要です。
今回紹介したSTPは経営において、基礎の重要な考えになるので、コンサル志望の方や、これから起業される方などは、必ず理解することをお勧めします!
それではまた次回でお会いしましょう!
〇参考文献
https://satori.marketing/marketing-blog/stp/